hard landing 2003 8 20

 私は、再三再四、イラク戦争には反対してきました。
イラク戦争が間違いとは言いません。
しかし、問題は、イラク戦争を事業として考えた時に、
採算が合わないという点、そして事業計画が甘いという点です。
 さらに、問題なのは、
イラク戦争をするということは、
ソフトランディングではなくて、ハードランディングを選択したことになるからです。
これは、イラクのハードランディングではありません。
中東地域全体のハードランディングのことです。
イラク戦争は、その引き金を引くことになるのです。
 中東地域全体をハードランディングさせることは、相当の力仕事になります。
その覚悟が、どうもアメリカにはないように思えたのです。
これは、ひとつの文明を作るほどの力仕事になるのです。
 以前、こんなことを書きました。
 イスラム教の古さを指摘する欧米の知識人が多いですが、
しかし、キリスト教も同じだったのです。
 かつて、キリスト教では、富者は神の国には入れないとされてきました。
しかし、カルバンという人が、これを大転換し、
神の国には入れないとされてきた富者も、神の国に入れるようにし、
キリスト教という大きな歯車と、近代産業という大きな歯車が、かみ合うことになったのです。
宗教的にも、産業的にも、歴史的偉業となったのです。
これは、宗教改革と言われていますが、キリスト教の革命にも近かったのです。
しかし、この大事業は、あまりに多くの犠牲者を出すことにもなったのです。
 さらに、大事業が続きます。
政治面での改革です。
カルバンやクロムウェルは偉大な政治家でもあり、偉大な改革者でもあったのですが、
カルバンやクロムウェルの政治、つまり神政政治が、あまり、うまく行かなかったのです。
 そこで、ジョン・ロックが、政治を宗教から切り離し、
現代の政治原理の元になる近代政治原理を確立したのです。
このように、「経済と宗教」に続いて、「政治と宗教」という大改革が続いたのです。
 さて、イスラム教では、カルバンにあたる人は出現していません。
もちろん、キリスト教の宗教改革に相当するほどの宗教改革は起きていません。
また、イスラム世界では、ジョン・ロックにあたる人は出現していません。
それゆえ、キリスト世界で起きた政治改革も、イスラム世界ではありません。
 要するに、中東世界を変えるには、
カルバンやクロムウェル、そして、ジョン・ロックがやった大事業を行なうことになるのです。
これは、歴史を学び、歴史から法則を学ぶ必要があります。
ヘーゲルが打ち立てた歴史哲学は、誰にも学ばれず、誰にも活用されず、
そんな感じがします。
しかし、歴史には、大きな法則が存在します。
ヘーゲルの歴史哲学を活用すべきだったと言えます。
 さて、中東の未来は、中東の改革は、川下りが、激流下りとなってきた感じがします。
何が、ソフトランディングだったか、わかりませんが、
中東地域の民主化が、あまり、うまく行ってないのを見て、
まず政治改革は延期し、先に経済改革を先行させ、
経済改革が成功したら、政治改革を実施する。
こういうシナリオでもよかったと思います。
 しかし、今の状況では、政治改革と経済改革が同時進行か、
政治改革が先行しているようにも見えます。
 このまま行くと、やがて、アラブが、ひとつにまとまり、
アラブ統一、巨大なアラブ国家出現という未来図も見えます。
そうなった時に、世界情勢は大きく変ります。
今のままでは、イラク戦争が、その引き金になったとも言えます。
 今という時代は、困難な時代です。
これは、ここ、二千年の歴史でも、困難な時代です。
このような困難な時代に、指導者をしている人達は、勇気ある人達です。
大成功か、大失敗に終わります。
 二千年の終わりに指導者になることは、大変、名誉なことですが、
失敗すれば、二千年の不名誉になります。